2005年 12月 03日
[原文] 2005年12月3日の公式サイトの日記。 Archive film footage 映像に関する色々な話です。現在The Whoの映画を撮影中のMurray Lerner監督に映像アーカイブを明け渡したことについては、Peteにとっては不承不承という雰囲気が伝わってきます。また、好きなアーティストのライブはできれば映像ではなく生で見るべきだと主張しています。それができない場合にはインターネットで見るのもいいという意見は、自身が行ったばかりの『BASEMENT JAM』を下敷きにしてのものでしょう。まだまだ隠居せずクリエイティブな仕事を進めていきたいという頼もしい言葉も見られます。 英国の新聞The Independent紙のアート・ディレクターであるDavid Listerは、Bob DylanやBruce Springsteenのような一流ミュージシャンが最近リリースしたDVDには、誰かが何年も「隠していた」素晴らしいライブ映像があると指摘し、どうしてこのようなことが起こるのかという問いを投げかけている。 DVDは今までなかったこれらの種類の映像を発表する場を作った。この媒体がこれまでかなりの期間長続きしていることは認めるが、音楽ドキュメンタリーとバイオグラフィの需要は少しずつ増えてきている。 The Whoと私自身の映像の出所は様々だ。ライブはめったに撮影されなかったし、カメラが入っていた場合もアーティストやレコード会社に権利が委ねられることは少なかった。テレビ出演時の映像は常にテレビ局のものとなった。我々のマネージャー達が映画制作に関わる人間だった為、The Whoの映像は活動の最初期から作られていた。私は60年代から70年代の間、Tatooist Internationalという名のフィルム会社とゆるやかに関わり、よくバンドの短い映像を撮るのに活用させてもらっていた。 転機が訪れたのは、フィルムが適切に保管され、記録せざるを得なくなってからだ。この25年間、私は注意深くThe Whoの映像に気を配り、時間をかけてデータベース化してきた。最近になって、我々の保存品はヴィネガー・シンドロームと呼ばれる現象に襲われた。これはフィルムの容器から容器に広がり空気伝染するウイルスだ。(※1950年頃から映画フィルムに使われているアセテートという素材は、保管環境が適切でないと酢酸を発生して劣化し、発生した酢酸がさらに周辺にあるフィルムを劣化させるという性質をもっています。これをヴィネガー・シンドロームと呼びます)残りのフィルムを移動しなければならなくなった。日常的にフィルムの管理をしていた者は古いフィルムやテープと関係する他の悪い物質により体調を崩してしまった。 これら全てのことが起こっている頃、Spitfire Films(Martin Scorcese監督のBob Dylanの映画を制作した会社)がThe Whoに関する新しい伝記映画を制作することを我々のマネージャーとRoger Daltreyに申し入れた。Murray Lerner(伝説的な1972年のワイト島ライブを撮影した)が監督に任命された。 私はフィルム管理という仕事の全てを明け渡し、別の保存庫に移してMurrayに自由に使ってもらうようにするより他はなかった。それは無責任なことに思われた。だがそうしなければ、全てのフィルムを修復し、記録し、誰が撮影して誰が所有しているのか、我々が自分達の意向に沿ってライセンスできるかどうかはっきりさせる作業を終える前に、全てのフィルムがただの屑と化してしまうだろう。 事実、私の努力がなければこれらのフィルムは今ごろ存在していなかったはずだ。なぜなら財政上のピークにあったThe Whoを1982年に終わらせたのは私なのだから、フィルムの管理をする義務があると考えたからだ。私は1976年にMeher Babaのイギリスの映像の保管を始めていたため、この仕事について既にかなりの経験があった。 現在、問題はブートレグ映像の存在によりさらに悪化した。この映像は様々な場所から集まる。テレビ放送の技術基準の低下により、人々の興味をそそり価値あるこの種のフィルムが多数生まれた。かつてはテレビで放送するにはあまりにも画質が悪いとみなされていたが、インターネットで流すには充分なクオリティだ。 冒頭のListerの問いにはこう答えよう。アーティストとそのマネージャーが自分達のフィルムを管理し保存するべきだ。所有権を持っていないものは、ちゃんとしたマスターコピーを得て、映画制作会社が何の映像が存在しているかわかるようにしておくべきだ。 The Whoの伝記映画は今までにもあり、その一部はご都合主義的なものだった。我々は、自分達のライブ活動はレコーディング活動をも凌ぐのではないかと薄々感じており、度々映画界に進出しての活動も行っていた。一時は相当な規模のShepperton Studiosも所有していた。我々がしてきた努力の中には若気の至りといえるようなものもあった。まだ元気な頃の話だが、Keith Moonは「Springtime for Hitler」というタイトルのミュージカル映画を制作する権利を得るべくMel Brooksに真剣に申し入れをしていた。(※米国の映画監督Mel Brooksは1968年作の初監督作品『THE PRODUCERS/プロデューサーズ』で劇中劇として『Springtime for Hitler/ヒトラーの春』を取り上げています)私もListerが記事で何度も触れている「Lifehouse」というSF映画の制作を試みていた。テクノロジーが私がしようと考えていたことを可能にするよりずっと前のことだが。ともかく、私はちゃんと映画制作に関わったことはない。 だがいくらかの経験はある。何本か16ミリ作品を作った。自分で試行錯誤して編集し、サウンドを合わせ、ネガのカットとプリントの処理を行い、最終的な音響効果をつけ、配給までを手配した。様々な内容の、今や急速に駄目になりつつあるビデオが何千時間分も残っている。(新しいメディアの方が大昔のものより弱いということが証明されているのは皮肉なことだ) 自分のフィルム保存庫に入るといつもパニックの発作に襲われる。そこには価値があるかもしれないものが山のように積まれているが、その全てを調べるのには一生涯かかる。なぜならそこまで集めるのに一生涯かかったからだ。その全てを誰かに任せるのなら心から信頼している人間を選ぶだろう。なぜ私がMurray Lernerに全幅の信頼を寄せているかはよくわからないが、彼は素晴らしい映画監督であり、膨大な保存物を好きに使ってもらうことに満足している。だが全てのアーティストが次の段階に進まなければならない時代はもうすぐそこにきている。もし彼等が自分自身で映像を管理している自らの姿を撮影したとしたら、膨大な作品群をさらに1つ増やすことになるだろう。(※よくわからなかったので無理やりです。siltは砂より細かく粘土より粗い土ということ) 私の場合、思っていたよりも自分が「重要な」ロックアーティストだということを自覚するようになった。私は残りの人生を賞をもらい、または誰かに授け、自伝を書き、私に関する本に序文を寄せ、チャリティ・オークションの為にギターにサインをして過ごすべきだろうか?それともクリエイティブな仕事をさらに進めていくべきだろうか? Jake Auerbach監督の手による2人の画家Frank AuerbachとLucian Freudについての映像を見ていると、仕事を続けたいという気持ちに駆られる。そのうちの一部は自分が今していることを映像に残すというものだ。明日私は小さなクラブで5000人のインターネット上の観客の為にライブを行う。このイベントは記録される。だがいくらしっかりとフィルムに記録して奥深くにしまいこんでおこうと努力したライブであっても、以前であれば火曜日までにはブートレグ映像となっていただろう。それは私のマネージャーがよく言う言葉を借りれば「出回る」ということだ。一度出回ってしまえばもう取り戻せない。 最近のBob Dylanの未発表映像公開は、しかるべき時に行われたと感じている。先日はBruce SpringsteenのDVDコンサートのようなものに出席した。その映像が残されていたことは喜ばしかった。だが私は彼のライブを見たことをうれしく思う。ミュージシャンのライブを生で見ることの重要性はJimi Hendrixの映像を見ればはっきりわかるものだ。映像は彼の本当の姿を伝えてはいない。実物のJimiは魔法のように魅惑的だった。(※"more than magical"という簡潔で美しい表現をうまく日本語にできません)ただそれが映像にうまく表れないだけだ。映像でも何もないよりはましだが、もし今活躍中のアーティストの一番良い状態を見たければ、絶対に生で見るべきだ。 それが無理ならインターネットでライブを見るのも良いだろう。たとえ途切れ途切れの映像であっても、何らかの形でライブに参加しているような気持ちになれるかもしれない。音楽とはただの分割した時間に過ぎない。時間は限りのないものだが、フィルムとテープを駄目にする。 追伸。この日記をアップしてから沢山の人々から助言を受け取り、現存するフィルムを自分で管理するよう勧めてもらった。今も管理はされているが、それはかつてThe WhoのベテランスタッフだったBill Harrisonの手によるものだ。データベースの形になっており、今までは中止せざるを得なかったきめ細かい修復作業が可能だ。(?)ヴィネガー・シンドロームの進行は止まっている。
by yukie909
| 2005-12-03 04:40
| diary
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アバウト
Things He Said Todayについて
ピートの考えが伝わってくる文章を翻訳しています。現在のところは過去の日記を訳した文章のアーカイブが中心となっています。
翻訳のプロでもなんでもない、そこらへんにいるただのザ・フーファンが英辞郎とGoogle等を頼りにちくちくと訳しているだけなので、「ここに載っている訳文=ピートの言いたいこと」と思い込むのは大変危険です。一つの参考としてどうぞ。以下備考など。 ★最初に必ず原文へのリンクを明記しています。(ただし、現在はそのほとんどがアクセス不能となっています) ★青い文字の部分が訳文です。文中に黒い文字で(※○○)とあるのは、原文にない説明をこちらで付け加えたものです。 ★意味がよくわからなかった部分はとにかく無理やり訳した上で「(?)」をつけています。 ★あとから読み直して変えたくなった部分はばんばん修正します。 ★ずっと人名やバンド名を英語で表記してきましたが途中からカタカナ表記に変えました。過去の分まで遡って直すのはもう諦めたので統一されていないのは大目に見て下さい。 (姉妹サイト) WHO's Generation カテゴリ
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